2026年9月25日

「お酒を飲むと、すぐ顔が赤くなる」
「昔は弱かったけれど、飲んでいるうちに強くなった」
「自分はお酒に弱いと思うけれど、実際の体質はどうなのだろう?」
そんな方に知っていただきたいのが、「アルコール体質」と食道がんの関係です。
お酒を飲んだときに顔が赤くなりやすい人は「フラッシャー」と呼ばれることがあります。顔が赤くなるのは単なる酔い方の違いではなく、アルコールの分解途中に生じる「アセトアルデヒド」という物質が体内にたまりやすい体質を反映していることがあります。
そして、このアセトアルデヒドは発がんに関係する物質です。
特に、顔が赤くなりやすい体質でありながら飲酒を続けている人では、食道がん、なかでも日本人に多い「食道扁平上皮がん」のリスクが高くなることが、多くの研究から分かっています。
東森医院では、こうした「自分のお酒の体質」を知るためのアルコール遺伝子検査も行っています。
遺伝子検査の目的は、「あなたはお酒を飲めます」「飲めません」と判定するだけではありません。
自分の体がアルコールをどのように処理しているのかを知り、これからのお酒との付き合い方を考える。そのきっかけにすることが大切だと考えています。
1.なぜ、お酒を飲むと顔が赤くなるの?
アルコールを飲むと、体内ではまずエタノールが「ADH1B」という酵素などによってアセトアルデヒドに変えられます。
次に、このアセトアルデヒドを「ALDH2」という酵素が酢酸へと分解していきます。
つまり、
エタノール
↓
アセトアルデヒド
↓
酢酸
という順番で処理されます。
ここで重要なのが、途中でできる「アセトアルデヒド」です。
アセトアルデヒドが体内に増えると、顔が赤くなる、動悸がする、頭が痛くなる、気分が悪くなる、といった症状が出ます。また、DNAを傷つける作用などを通して、がんの発生にも関係すると考えられています。アルコールそのものも国際的に発がん性が認められており、飲酒は口腔・咽頭・喉頭、食道、肝臓、大腸など複数のがんのリスク上昇と関連します。
ところが、ALDH2の働きには生まれつき大きな個人差があります。
ALDH2の働きが十分な人では、アセトアルデヒドを比較的速やかに処理できます。一方、ALDH2の働きが弱い人では、飲酒後にアセトアルデヒドがたまりやすく、顔が赤くなったり、動悸や吐き気が出たりします。
これが、いわゆる「フラッシャー体質」の大きな理由です。
2.フラッシャーは、なぜ食道がんに注意が必要なの?
食道がんとアルコール体質との関係は、日本を含む東アジアで特に詳しく研究されてきました。
日本人男性を対象とした研究では、飲酒後に現在または過去に顔が赤くなったことがある人では、飲酒量が増えるにつれて食道扁平上皮がんのリスクが大きく上昇することが報告されています。また、ALDH2の働きが低下する遺伝子型と飲酒が組み合わさることで、食道がんリスクが高くなることも複数の研究で確認されています。
2023年に発表された、中国・日本・韓国を含む34研究、6万6000人以上を解析した研究でも、ALDH2の働きが低下する遺伝的特徴を持つ人では、飲酒に伴う食道がん、口腔・咽頭がん、肝がんの負担が従来考えられていた以上に大きい可能性が示されています。
さらに2026年には、日本人のアルコール依存症男性1万人以上の内視鏡検査データを解析した研究が報告されました。この研究でも、ADH1BとALDH2の遺伝子型の組み合わせによって、食道扁平上皮がんや頭頸部がんの発見リスクに大きな差が認められています。ただし、これはアルコール依存症という非常に飲酒量の多い集団を対象とした研究ですので、その数字を一般の方へそのまま当てはめることはできません。
重要なのは、
「お酒を飲む量」だけではリスクは決まらない
ということです。
同じ量のお酒を飲んでいても、アセトアルデヒドを処理する能力によって、体が受ける影響は異なる可能性があります。
3.「飲んでいたら強くなった」は、本当に体質が変わったの?
ここはぜひ知っておいていただきたいポイントです。
「若いころはビール1杯で真っ赤になっていたけれど、飲み会を重ねているうちに赤くならなくなった」
「昔よりお酒が飲めるようになったから、体がお酒に強くなった」
という方は珍しくありません。
しかし、遺伝子そのものが飲酒によって「お酒に強いタイプ」に変化するわけではありません。
アルコール体質検査では、ADH1BとALDH2というアルコール代謝に関係する遺伝的特徴から、当院ではA~Eの5タイプに分類します。この遺伝的なタイプは生涯変わりません。

一方で、飲酒を続けることで本人が顔の赤みや不快感を感じにくくなったり、「以前より飲める」と感じたりすることがあります。
実際、日本人を対象とした研究では、「現在赤くなるか」だけではなく、「昔、少量の飲酒で赤くなっていたか」という情報も、ALDH2の働きが弱い体質を推測するうえで重要であることが示されています。
つまり、
「最近は赤くならないから大丈夫」
とは限りません。
むしろ、本来はアセトアルデヒドがたまりやすい体質なのに、飲酒に慣れて飲む量が増えてしまうことが問題になることがあります。
「飲めるようになること」と「安全に分解できるようになること」は、同じではないのです。
4.私自身も「D型だと思っていたらE型」でした
実は、私自身もアルコール遺伝子検査を受けました。
もともとお酒には弱く、顔も赤くなるため、自分では「D型くらいかな」と思っていました。
ところが、実際に調べてみると結果は「E型」でした。
E型は、ALDH2が不活性で、アセトアルデヒドを十分に分解できないタイプとされています。ごく少量のお酒でも不快症状が出やすく、無理な飲酒を避けることが勧められる体質です。
振り返ってみると、私も若いころは飲み会などで「もう少し飲めるようにならないと」と思い、頑張ってお酒を飲んでいた時期がありました。
けれど、遺伝子検査で自分の体質を知ってからは考え方が変わりました。
「自分はそもそも、無理して飲む体質ではないんだ」
と分かったからです。
今ではお酒の席でも無理をせず、最初からノンアルコールを選ぶことも増えました。
個人的には、これこそアルコール遺伝子検査の大きな意味の一つだと思っています。
検査によって人生が制限されるのではありません。
むしろ、自分の体質が分かることで、
「飲まなければいけない」
「みんなと同じように飲まなければいけない」
「鍛えれば飲めるようになるはず」
という考えから離れることができます。
お酒に強い人には、お酒に強い人なりの注意点があります。飲めるために飲酒量が増え、脂肪肝、肝障害、高血圧、依存症などにつながることがあります。
一方、お酒に弱い人には、お酒に弱い人なりの注意点があります。
大切なのは「強いか、弱いか」ではなく、自分の体質を理解して、その体質に合った選択をすることだと思います。
5.アルコール遺伝子検査は「飲んでいい量を決める検査」ではありません
ここで一つ注意していただきたいことがあります。
アルコール遺伝子検査で「お酒に強いタイプ」と判定されたからといって、「たくさん飲んでも大丈夫」という意味ではありません。
現在では、アルコールはがんの原因となることが明確になっています。World Cancer Research Fundは、がん予防という観点では「飲まないことが最も望ましい」としています。少量であっても、一部のがんではリスク上昇が認められるためです。
厚生労働省も2024年に公表した「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」で、飲酒による影響には年齢、性別、体質などによる個人差があることを明記し、単純な「お酒の杯数」ではなく、摂取する純アルコール量を把握することの重要性を示しています。
したがって、遺伝子検査は「ここまでなら飲んで大丈夫」という免許証ではありません。
「自分はどんな体質なのか」
「今までの飲み方は、自分の体に合っていたのか」
「これから飲酒量を減らした方がよいのか」
を考えるための材料の一つです。
また、アルコール遺伝子検査だけで食道がんの有無が分かるわけでもありません。
遺伝子検査は、あくまで「体質」を調べる検査です。
長年飲酒を続けている、飲酒すると顔が赤くなる、昔は赤くなっていた、喫煙歴がある、飲酒量が多い、といった方では、年齢やその他のリスクも含めて、必要に応じて上部消化管内視鏡検査、いわゆる胃カメラについて相談することが大切です。
胃カメラは「胃」だけを見る検査ではありません。
咽頭、食道、胃、十二指腸を観察することができ、食道がんの早期発見にも重要な検査です。
自分の体質を知ることから、お酒との付き合い方を考える
「自分はお酒が弱いから恥ずかしい」
「飲み会だから少しくらい無理して飲まないと」
以前は、そのような雰囲気もあったかもしれません。
しかし、お酒を飲めるかどうかは、根性や性格の問題ではありません。
遺伝的な体質が大きく関係しています。
顔が赤くなるのは、「もう少し飲めば強くなる」というサインではなく、「この体はアルコールの影響を強く受けています」という体からのサインであることがあります。
そして、体質を知れば、行動を変えることができます。
私自身も、遺伝子検査でE型と分かってから、「頑張って飲む」ことをやめました。
飲み会ではノンアルコールでもいい。
乾杯だけお酒にする必要もない。
飲まなくても、その場を楽しむことはできます。
アルコール遺伝子検査の価値は、単にA型、B型、C型、D型、E型という結果を知ることではありません。
その結果をきっかけに、自分の体に合った飲酒習慣を考えることにあります。
東森医院では、アルコール遺伝子検査を行っています。
「お酒を飲むとすぐ赤くなる」
「昔より飲めるようになったけれど、本当に大丈夫なのか気になる」
「家族がお酒に弱い」
「自分のアルコール体質を一度調べてみたい」
という方は、お気軽にご相談ください。
自分の体質を知ることは、お酒をやめるためだけの検査ではありません。
これからの自分に合った、お酒との付き合い方を考えるための検査です。
参考文献
記事監修
院長 東森 啓(ひがしもり あきら)
医学博士
日本内科学会 認定内科医・総合内科専門医
日本消化器病学会 専門医・指導医
日本消化器内視鏡学会 専門医・指導医
日本ヘリコバクター学会 ピロリ菌感染症認定医
日本カプセル内視鏡学会 認定医
日本消化管学会 専門医
日本医師会認定産業医
難病指定医
東森医院では、総合内科・消化器内科の診療に加え、胃カメラ・大腸カメラなどの内視鏡診療を行っています。飲酒習慣についても、肝臓の数値だけを見るのではなく、アルコール体質や生活習慣、消化管疾患のリスクまで含め、一人ひとりに合った健康管理を一緒に考えていきます。
100年近く地域の皆さまと歩んできた東森医院が大切にしているのは、病気だけではなく、その人らしい毎日を見ること。
「ひらの色。のぞむ明日を、もっと近くに。」
これからも平野のまちで、一人ひとりの未来につながる医療を目指してまいります。