2026年10月23日

総合内科専門医が解説する40代・50代からの認知症予防
「健康診断で毎年、血圧が高いと言われるけれど、特に症状もないからそのままにしている」
外来では、こうしたお話をよく耳にします。
高血圧というと、脳卒中や心筋梗塞を予防するために治療する病気、というイメージを持たれている方が多いと思います。
もちろんそれは間違いではありません。しかし最近は、高血圧が将来の認知機能低下や認知症とも関係していることが分かってきました。
しかも大切なのは、物忘れが気になり始めてからではありません。
むしろ、まだ元気な40代・50代から血圧をきちんと管理することが、10年、20年先の脳の健康につながる可能性があります。
今回は「高血圧と認知症」をテーマに、総合内科専門医の立場から、できるだけ分かりやすくお話しします。
1.高血圧が続くと、脳の細い血管にも負担がかかります
血圧とは、心臓から送り出された血液が血管の壁を押す力です。
血圧が高い状態が何年も続けば、血管には少しずつ負担がかかります。
これは心臓や腎臓だけの話ではありません。脳の中には非常に細い血管が張り巡らされており、高血圧が続くことで、その小さな血管にも動脈硬化や傷みが生じます。
大きな血管が詰まれば脳梗塞、破れれば脳出血になります。
一方で、もっと小さな変化が、症状のないまま少しずつ積み重なることもあります。MRI検査で「白質病変」や小さな脳梗塞を指摘されたことがある方もいらっしゃるでしょう。
こうした脳の血管の変化が蓄積すると、記憶力だけでなく、注意力や判断力、物事を段取りよく進める力などにも影響する可能性があります。
つまり、高血圧の治療は「今の血圧の数字を下げるため」だけのものではありません。
10年、20年先の脳や血管を守るための治療でもあるのです。
2.特に大切なのは、40代・50代の「まだ元気な時期」です
認知症というと、70代、80代になってから考える病気と思われるかもしれません。
ところが、血管の変化はある日突然起こるものではありません。
10年、20年という長い時間をかけて少しずつ進んでいきます。
そのため近年では、中年期の血圧管理が非常に注目されています。
日本人を長期間追跡した久山町研究でも、中年期の高血圧と、その後の血管性認知症との関連が報告されています。
また、日本高血圧学会からも、認知症や認知機能低下を予防するという観点から、早い時期から血圧を管理し、長期間安定させることの重要性が示されています。
これは「高齢になってからでは遅い」という意味ではありません。
何歳からでも血圧を整える意味はあります。
ただ、40代・50代で健康診断を受け、
「少し血圧が高いですね」
と言われている段階は、将来の健康を考えるうえでとても大切なタイミングです。
症状がないからこそ、今のうちに見直せることがあります。
3.血圧を下げれば、認知症にならないのでしょうか?
ここは少し正確にお伝えする必要があります。
血圧を下げれば、必ず認知症を予防できるというわけではありません。
認知症には年齢や遺伝だけでなく、糖尿病、脂質異常症、喫煙、運動不足など、さまざまな要因が関係しています。
一方で、血圧を適切に管理することで、認知機能低下のリスクを減らせる可能性を示す研究は増えています。
代表的なのが「SPRINT MIND」という大規模研究です。
高血圧の方を対象に、より積極的に血圧を下げたグループと標準的に治療したグループを比較したところ、認知症そのものについては明確な差を示せませんでしたが、認知症の前段階とされる軽度認知障害(MCI)は、積極的に血圧を管理したグループで少なかったことが報告されています。
したがって、
「血圧を下げれば認知症にならない」
と考えるのではなく、
「血圧を適切に管理することは、脳卒中だけでなく、将来の認知機能を守るためにも大切」
と考えるのがよいでしょう。
一方、高齢の方では「血圧は低ければ低いほどよい」とは限りません。
ふらつきや転倒、腎機能、体力、服用している薬などを確認しながら、その方に合った目標を決めることが大切です。
4.総合内科専門医だからこそ、血圧だけを見ません
高血圧の診療というと、
「血圧を測って、薬を出して終わり」
というイメージを持たれている方もいるかもしれません。
しかし、実際の診療はそれほど単純ではありません。
高血圧の患者さんを診るときには、血圧だけでなく、
糖尿病はないか。
LDLコレステロールは高くないか。
腎臓の機能は低下していないか。
体重が増えていないか。
睡眠はきちんと取れているか。
いびきや睡眠時無呼吸はないか。
喫煙や飲酒はどうか。
現在飲んでいる薬に問題はないか。
こうしたことも一緒に考えます。
なぜなら、高血圧、糖尿病、脂質異常症などは、患者さんの身体の中で別々に存在しているわけではないからです。
複数のリスクが重なり合い、長い時間をかけて脳、心臓、腎臓、血管に影響していきます。
例えば、血圧だけ薬で下がっていても、糖尿病や高コレステロール血症、喫煙、運動不足がそのままであれば、将来の病気のリスクが十分に下がったとは言えません。
逆に言えば、40代・50代のうちから、
血圧、血糖、コレステロール、体重、運動、食生活
を一つずつ整えていくことが、将来の脳卒中や心筋梗塞、腎臓病、そして認知機能低下への備えにつながります。
一つの病気だけではなく、その方の身体全体を見る。
それが、総合内科専門医として生活習慣病を診療するときに大切にしている考え方です。
5.「血圧が少し高いだけ」のうちに、一度見直してみませんか?
高血圧の難しいところは、ほとんど症状がないことです。
血圧が高くても、普段通り仕事をして、食事をして、生活できている方はたくさんいらっしゃいます。
そのため、
「痛くもかゆくもないし、まだ大丈夫」
と受診が後回しになりがちです。
しかし、生活習慣病の診療では、症状が出ていない時期だからこそできることがあります。
例えば、
・健康診断で毎年、血圧を指摘されている
・40代、50代になって血圧が上がってきた
・家庭血圧が高いことが多い
・高血圧に加えて糖尿病やコレステロールも指摘されている
・家族に脳卒中や認知症になった方がいる
・血圧の薬を飲んでいるが、このままでよいのか気になる
このような方は、一度ご自身の血圧や生活習慣を整理してみてもよいと思います。
診察室で測った血圧だけで判断するのではなく、家庭血圧を確認し、必要に応じて採血で血糖、コレステロール、腎機能などを調べることで、その方の将来のリスクが見えてくることがあります。
必要であれば薬を使います。
ただし、薬を飲むこと自体が目的ではありません。
5年後、10年後、20年後も元気に過ごせる身体をつくること。
それが、高血圧を治療する大きな目的だと考えています。
まとめ ― 血圧を診ることは、将来の脳を守ることにもつながります
高血圧は、脳卒中や心筋梗塞だけを予防するために治療する病気ではありません。
近年の研究からは、中年期から高い血圧が続くことが、将来の認知症や認知機能低下にも関係していることが分かってきました。
とはいえ、認知症予防に「これだけをすればよい」という方法はありません。
血圧、血糖、コレステロール、腎機能、体重、運動、睡眠、食生活。
それぞれを別々に考えるのではなく、身体全体を一緒に整えていくことが大切です。
東森医院では、総合内科専門医として、高血圧をはじめ、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病を総合的に診療しています。
単に「血圧の数字を下げる」だけではなく、脳、心臓、腎臓を含めて、これから先の健康をできるだけ長く守ることを考えながら診療しています。
大阪市平野区で高血圧や生活習慣病について気になることがある方、健康診断で血圧を指摘された方は、お気軽にご相談ください。
参考文献
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SPRINT MIND Investigators for the SPRINT Research Group. Effect of intensive vs standard blood pressure control on probable dementia: a randomized clinical trial. JAMA. 2019;321(6):553-561. doi:10.1001/jama.2018.21442. JAMAネットワーク
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Cumulative blood pressure and risk of dementia and cognitive decline: a systematic review and meta-analysis. J Prev Alzheimers Dis. 2026;13(4):100500. doi:10.1016/j.tjpad.2026.100500. PubMed
Mogi M, Hoshide S, Kario K. Recent developments and challenges in hypertensive dementia over the past year. Hypertension Research. 2026;49:2301-2306.
医師監修
東森 啓 医師
医療法人 東森医院 院長
総合内科専門医
消化器内科・内視鏡診療にも従事
大阪市平野区で、生活習慣病から消化器疾患まで幅広く診療しています。高血圧についても血圧の数値だけを見るのではなく、糖尿病、脂質異常症、腎機能、体重、生活習慣などを含め、患者さん一人ひとりの将来の健康を考えた総合的な診療を心がけています。
ひらの色。
ひとにやさしく。
らくに受けられる。
のぞむ明日を、もっと近くに。
高血圧は、今日や明日の体調だけを考えて治療する病気ではありません。
10年後、20年後にも、自分らしく暮らしていただくために。
血圧だけを見るのではなく、糖尿病やコレステロール、腎臓、生活習慣まで含めて、その方の身体全体を診ていく。
1927年の創建以来、大阪市平野区で続いてきた東森医院。
これまでの地域医療を大切にしながら、これから先の健康まで一緒に考えていく。
この街で、一人ひとりの「のぞむ明日」を少しでも近くに。
それが、東森医院の「ひらの色。」です。