2026年10月07日

「ピロリ菌が見つかったのですが、この年齢からでも除菌した方がいいですか?」
胃カメラなどでピロリ菌感染が見つかった方から、よく聞かれる質問のひとつです。
特に70歳代、80歳代になると、「今から薬を飲んでも意味がないのでは」「若い人だけが除菌すればいいのでは」と考える方もおられます。
結論からいうと、ピロリ菌の除菌治療に「○歳まで」という明確な年齢制限はありません。
現在の『H. pylori感染の診断と治療のガイドライン2024改訂版』でも、原則としてH. pylori感染者は除菌治療の対象とされており、高齢者についても、年齢だけを理由に除菌を行わないという考え方にはなっていません。
私自身、このガイドライン改訂にあたり、「高齢者に対して除菌治療を行うべきか?」というClinical Question(CQ)のシステマティックレビューを担当しました。
今回は、その内容も踏まえながら、ピロリ菌は何歳まで除菌した方がよいのか、70歳代や80歳代でも除菌する意味があるのかについて、できるだけ分かりやすく説明します。
ピロリ菌に感染していると、なぜ除菌した方がいいの?
ピロリ菌(Helicobacter pylori)は、胃の粘膜に長期間感染する細菌です。
感染した状態が続くと慢性的な胃炎が起こり、時間の経過とともに胃粘膜の萎縮が進んでいきます。また、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胃がんなどとの関連もよく知られています。
そのため、ピロリ菌が見つかった場合には、菌を取り除く「除菌治療」を行うことが基本となります。
もちろん、除菌をしたからといって、その後の胃がんを完全に防げるわけではありません。しかし、胃の炎症を改善させ、将来の胃・十二指腸潰瘍や胃がんのリスクを下げていくという意味があります。
特に、まだ胃粘膜の萎縮がそれほど進んでいない時期に除菌できれば、より大きなメリットが期待できます。
では、ピロリ菌は何歳まで除菌すればいいのでしょうか?
実は、これまで「ピロリ菌除菌は75歳まで」「80歳を超えたら除菌しない」といった明確な基準はありませんでした。
そこで今回のガイドライン改訂では、
「高齢者に対して除菌治療を行うべきか?」
というCQが設定され、これまでに報告された研究を系統的に調べました。
私たちがシステマティックレビューを行ったところ、研究によって「高齢者」の定義には違いがあり、60歳以上または65歳以上を対象とした研究が中心でした。
その結果をまとめると、高齢だから除菌治療のメリットがなくなるとはいえない、というのが現在の考え方です。
ガイドラインでは、
「高齢者に対する除菌治療は短期的には消化性潰瘍を予防することができ、忍容性も高いことから、行うことを提案する」
とされています。
つまり、「高齢だから除菌しない」のではなく、年齢以外の要素も含めて考えることが大切です。
70歳代・80歳代でもピロリ菌除菌には意味があります
高齢者に対するピロリ菌除菌については、いくつかの重要な研究があります。
60歳以上の方を対象とした大規模な研究では、ピロリ菌除菌を受けた方で胃がんの発症が少なかったことが報告されています。特に、除菌してから長期間経過した方では、その差がより大きくなっていました。
また、60歳以上でアスピリンを服用している方を対象としたランダム化比較試験では、ピロリ菌を除菌することで、少なくとも治療後しばらくの間は消化性潰瘍による出血を減らす効果が示されました。
胃・十二指腸潰瘍は若い方だけに起こる病気ではありません。むしろ高齢になると、アスピリンなどの抗血小板薬や痛み止めを使用している方も増えます。
そのような意味でも、高齢者におけるピロリ菌除菌には、胃がんだけでなく胃・十二指腸潰瘍を予防するという役割があります。
さらに、費用対効果を検討した研究でも、70歳代、80歳代を含めてピロリ菌の検査と除菌を行うことの有用性が示されています。
したがって、「80歳だから除菌しても意味がない」と一律に考える必要はありません。
高齢者ではピロリ菌除菌の副作用が増える?
一方で、高齢の方に何種類もの薬を飲んでもらうことに不安を感じるのは当然です。
ピロリ菌の除菌治療では、胃酸をしっかり抑える薬と抗菌薬を組み合わせて服用します。そのため、軟便や下痢、味覚の変化などの副作用が起こることがあります。
では、高齢になるほど副作用が増えるのでしょうか。
今回検討した研究では、除菌治療による有害事象の発生率について、高齢者と若い方との間に大きな差はみられませんでした。 また、高齢者だから薬をきちんと飲めない、除菌成功率が明らかに低くなる、という結果でもありませんでした。
ただし、これは「何歳でも全く同じように治療してよい」という意味ではありません。
実際の診療では、年齢だけでなく、全身状態、普段飲んでいる薬、肝機能や腎機能、薬剤アレルギーなどを確認したうえで除菌治療を行うことが大切です。
「何歳まで」よりも、その方に除菌するメリットがあるかを考える
ピロリ菌除菌について、私が大切だと思っているのは、単純に年齢だけで線を引かないことです。
例えば同じ80歳でも、元気に生活されている方と、多くの病気を抱えて治療を受けている方とでは状況が異なります。
また、胃カメラで胃粘膜をみたときに、萎縮がどの程度進んでいるのかによっても、その後の胃がんリスクは違います。
ですから、
「何歳までピロリ菌を除菌するのか」
ではなく、
「この方にとって、今からピロリ菌を除菌するメリットがあるか」
と考える方が、実際の診療には合っていると思います。
70歳、80歳という数字だけを理由に、ピロリ菌の検査や除菌治療をあきらめる必要はありません。
ピロリ菌を除菌したら、それで終わりではありません
もう一つ知っておいていただきたいのが、ピロリ菌を除菌しても胃がんのリスクがゼロになるわけではないということです。
特に長期間ピロリ菌に感染していた方では、除菌するまでに胃粘膜の萎縮や腸上皮化生が進んでいることがあります。
そのため、除菌が成功した後も、胃の状態に応じて定期的に胃カメラを受けていただくことが大切です。
「除菌薬を飲んだので、もう胃カメラを受けなくてよい」というわけではありません。
ピロリ菌を見つける、除菌する、きちんと除菌できたことを確認する、その後も胃をみていく。
ここまでを一連の流れとして考えることが重要です。
東森医院ではガイドラインに沿ったピロリ菌検査・除菌治療を行っています
大阪市平野区の東森医院では、『H. pylori感染の診断と治療のガイドライン2024改訂版』に沿って、ピロリ菌の検査・除菌治療を行っています。
胃カメラの所見やこれまでの検査結果を確認し、必要に応じてピロリ菌感染の有無を調べます。
除菌治療を行う場合には、年齢だけで判断するのではなく、服用中のお薬や基礎疾患、全身状態なども確認したうえで治療を行います。
また、除菌薬を飲んで終わりではなく、治療後には尿素呼気試験などを用いて、本当にピロリ菌がいなくなったかを確認することも大切にしています。
「昔ピロリ菌がいると言われたけれど、そのままになっている」
「以前除菌薬を飲んだけれど、成功したか確認していない」
「80歳を超えているけれど、今から除菌した方がいいのか知りたい」
このような場合も、一度ご相談ください。
まとめ|ピロリ菌除菌に「○歳まで」という決まりはありません
ピロリ菌は、年齢が高くなったからといって急に影響がなくなるものではありません。
現在のガイドラインでは、高齢者についても除菌治療を行うことが提案されています。
特に大切なのは、70歳、80歳という年齢だけで除菌する・しないを決めないことです。
高齢者でも、ピロリ菌を除菌することで胃・十二指腸潰瘍の予防が期待でき、胃がんリスクを下げる可能性もあります。一方で、全身状態や服用薬、胃粘膜の状態などによって治療のメリットは一人ひとり異なります。
「自分の年齢でもピロリ菌を除菌した方がいいのだろうか」と迷われている方は、年齢だけで判断せず、消化器内科で一度相談してみてください。
参考文献
監修
東森医院 院長 東森 啓
内科・消化器内科
大阪市平野区
『H. pylori感染の診断と治療のガイドライン2024改訂版』
CQ「高齢者に対して除菌治療を行うべきか?」システマティックレビュー担当
ひらの色。
ひとにやさしく。
らくに受けられる。
のぞむ明日を、もっと近くに。
東森医院では、胃カメラによる診断からピロリ菌の検査・除菌治療、除菌後のフォローまで、消化器内科として一人ひとりの状態に合わせた診療を大切にしています。
必要な検査や治療を、できるだけ分かりやすく、受けやすく。
地域の皆さまの胃の健康を、これからも身近な場所で支えていきます。